河合村雪祭り レーザーショウ物語

「福寿草の咲く丘」



  第2稿原案 金子卓司

<登場人物、神や精霊>

◆雪の姫・・・明日葉琴姫(アスハノコトヒメ)
◆雪ん子・・・福寿草の化身
◆村の子供・・・北風翔太
◆翔太のおばぁちゃん
場所・・・河合村(小学校近辺の山と翔太の家のまわり)

雪ん子との出会い

雪の悲しみとは
雪の暖かさとは
その気高く美しい姿が
尊い命の代償だとは
誰も知らない・・・

雪を見るとなぜ心が清められる思いがするのでしょう。
それはきっと、こんな雪ん子の真っ白な心が、伝わってくるからかもしれません。


昔、北風翔太という少年がいました。翔太は幼くして両親を亡くし、今はおばぁちゃんと二人暮しです。家の仕事もよく手伝う、元気な小学生です。
ある雪の夜、翔太がおばぁちゃんと囲炉裏を囲んでいると、コンコン、と、戸をたたく音がしました。
「誰ですか?」翔太はこんな夜更けに、しかも吹雪なのに一体誰が来たんだろう、とおそるおそる戸を開けました。

するとそこには雪にまみれた髪の長い少女がうずくまってこちらを見上げていました。
「迷子になってしまいました。今晩一晩だけ泊めてください。お願いします。」少女は色が白く、まるで雪のようです。
「翔太、いれておあげなさい」「うん、さぁ、はいんな。」と、翔太は少女を中へ入れてあげました。
「寒かったろう、どっから来たんだ?俺は翔太、おめぇ名前は?」
と、少女を見ると、なぜか火のそばに近寄ろうとはしません。しかも不思議なことに、あまり寒くはなさそうなのです。
「わたしの名は・・・あの・・・家へ帰る道が、わからなくなって・・・」
「まぁまぁ、きっと疲れてるんだろうよ、今日はこのぐらいにして、もうおやすみ。翔太、お前の部屋を貸しておあげ。」
翔太はうなずきました。
「ありがとう、翔太君、助かりました。」と、少女はにっこり微笑みました。そのとたん、翔太はポーっと赤くなりました。
これが、翔太と雪ん子の運命の出会いでした。



雪の姫の悲しみ

次の日、ようやく雪もやんで、いい天気になりました。ところが、少女の姿が見えません。家の中も、外も探しましたが見つかりません。
こっそり帰ったのかな?・・・と、ちょっと残念に思いつつ、翔太はいつものように元気に学校へ行きました。

ちょうどそのころ山では、大変なことが起こっていました。
見慣れない人たちが、大きな機械を使って、山々を削ろうとしていました。ドーン、カーン、と痛々しい音が響き渡りました。木々は倒され、ブナの林も、花々もどんどん死んでゆきました。村の人たちはただ黙って見ているしかありませんでした。

そして夜になり、なにやら突然吹雪がやってきました。
それは今までになかったような強い吹雪です。
「これは雪の姫が怒っているにちげぇねぇ。」
「アスハノコトヒメ様、怒らせちゃーいけねぇ!」
村の年寄りたちは先祖から伝わるとされる、アスハノコトヒメと呼ばれる雪のお姫様の恐ろしさを思い出しました。山をけが汚す者を吹雪で凍らせてしまうという恐ろしい言い伝えを。
ふと、翔太はおばあちゃんに、昨日の不思議な少女のことを聞きました。
「あの子はきっと、雪の精霊、雪ん子じゃよ。」
「え?雪ん子?!・・・でも普通の女の子じゃった。」
「いいや、翔太、雪ん子は福寿草の化身と言われておってな、アスハノコトヒメさまはとてもその花がお好きで、中でも色のきれいな大輪の福寿草を見つけると自分の娘そっくりの雪ん子に化けさせて、村を守らせるそうな。じゃがな、翔太、それは言い換えれば、何かが起こる前触れなのかもしれんのじゃ。」

アスハノコトヒメの娘は昔、山でなだれに会って遭難してしまったのです。
翔太は恐怖と驚きで体が震えました。おばぁちゃんはだまったまま、じっと吹雪が過ぎるのを待っているようです。

すると遠くから女の人の声がします。それは泣き叫んでいるような、悲しい声です。
一層風が強くなり、家々が飛んでいきそうなほどです。
「お前たち人間は山を汚そうとしている。山は精霊の住処であろうぞ。神の宿る所ぞ。代わりにお前たちを凍らせてやろうかや!」
それはまさしく、アスハノコトヒメの声だったのです!


約束

姫は怒りに任せて家という家を雪と風で押しつぶそうとしました。山にあった大きな機械や材料もすべて飛んでいきました。人々は逃げる場所もなく、ただブルブル震えながら祈っていました。しかし、このままだと村は全滅です!

と、その時、小さな人影が翔太の目の前に突然、風のように現れ、そしてこう尋ねました。
「あの時はありがとう。翔太君。一度だけ願いをかなえてあげるわ。」
「村を救ってくれ。おとなたちも悪いことはもうしねえはずだ、おねげぇだ!」
「もう山を汚さぬよう約束できますか?」
翔太が深くうなづくと、少女は突然雪ん子の姿になりました。
そして一気に空を飛び、次の瞬間にはアスハノコトヒメの前にいました。
「姫、お怒りお鎮めください!福寿草です!」
「そなた、人間と会うたな。もはや雪の精霊ではない。汚らわしい!」
吹雪は益々強まるばかりです。
「一度だけお願いを聞いてください!みなさんを許してあげてください!人間は悪い人ばかりではありません。きれいな心を持った人もいるのです。」
「福寿草よ!そなた人間たちの味方をするのか。あの山を見よ!もう取り返すことはできぬぞ!」
姫はまるで自分の体が傷ついたかのように痛々しい顔をしました。
「今一度、人々にご慈悲を!・・・お母様!」


アスハノコトヒメは亡くなった娘を思い出しました。
娘も自分も、かつては人間だったではないか、そんな人間たちを、なぜ許せないのか、愛する娘の願いをなぜきいてやれないのか・・・そう思ったとたん、姫の表情から怒りが消え始めました。
「そなたに免じて一度だけ許してしんぜよう。そこな少年!この村をまとめ、今後山々を、そしてこの大自然を守って行けるか?」
翔太はびっくりして言葉が出ません。やっとのことでこう言い放ちました。
「はい、きっと守ってみせます!」
姫はしばらく翔太を見つめました。翔太にはそれが1時間にも1日にも感じられました。
アスハノコトヒメが大きく息を吸い込むと、とたんに吹雪は収まり、雪もやみました。
そして姫は風に乗って山へ帰ってゆきました。

雪ん子は翔太のもとへ降りてくるとこう伝えました。
「私は福寿草の化身です。福寿草を見たら、わたしを思い出してください。そして、大切に見守っていてください。」
翔太は返す言葉もなく泣いていました。
雪ん子は初めて会った時と同じ翔太の家の前から、スっと風のように消えていきました。



あれから20年、翔太は村人たちと山を守り、それ以来吹雪もなくなったといいます。
今でも、冬になると翔太は雪ん子のことを思い出すのでした。
そして、アスハノコトヒメとの約束をこれからもずっと守ってゆこうと固く決心するのでした。

おや?そんな翔太の手を強く引っ張る子供が何かを見つけたようです。




「お父さん、福寿草が咲いてるよ。」